シニア(高齢期)の
ケアについて

獣医療の発展と共に動物の寿命も長くなり、人と同じく高齢化への対応が課題となっています。

動物との生活においてシニア(高齢期)ケアは避けては通れないものです。

動物も人と同じく、加齢とともに身体の機能が衰え、免疫(病気に対する抵抗力)の低下により、さまざまな病気にかかりやすくなります。まだまだ若いからではなく、若いうちからしっかりと健康管理や準備をしておくことが肝心です。

「もう年だから仕方がない」とあきらめず、少しでも長く快適に過ごせるための工夫が必要です。

大切な家族との生活を健やかなものにするために、シニア期の迎え方、過ごし方を考えてみませんか?

シニア(高齢期)の身体の変化について

予防医療は新しい家族が健康な生活を送るための飼い主様の姿勢であり、動物への愛情の証です。

どんなに治療が進歩しても予防に勝るものはなく、その考えは人でも動物でも変わりません。

老化が始まる時期は?

一般的な小型・中型犬や猫で老化が始まるのは7歳ころ(大型犬は5~6歳)からです。

老化が加速するのは中型犬で10歳ころ、小型犬や猫では12~13歳ころからであり、見た目だけでなく体の動きや行動にも老化を感じるようになります。少しでも気になる変化があれば、お気軽にご相談ください。

外観の変化

行動の変化

  • 後肢の歩幅が
    狭くなる

  • 名前を呼んでも
    反応しない

  • 散歩で
    よく立ち止まる

  • 行動に
    時間がかかる

  • 階段を
    のぼりたがらない

体内の変化

■心血管系の変化

心臓の弁の異常などが起こると、血液の流れが悪くなり、血液を送り出す量が低下したりします。このような状態により肺に水がたまって咳が出るなどの重篤な症状が起きることもあります。

■腎・泌尿器系の変化

腎臓の糸球体では血液をろ過することで不要な老廃物を排泄しています。老化に伴いこの機能が衰え、老廃物が蓄積してしまうことがあります。また、膀胱の筋肉の衰えでの失禁や、排尿の神経異常による排尿困難、頻尿が起こってしまい排尿介助が必要となることもあります。

■骨・関節系の変化

関節の軟骨や椎間板の老化により脊椎や四肢への負担が増加します。これらの変化による疼痛(痛み)で動きが悪くなることを老化と勘違いしてしまわないよう注意が必要です。

■胃腸系の変化

胃腸系は老化が遅い臓器といわれていますが、老化により唾液や胃液、胆汁などの消化液の分泌量が減少し、食べ物の消化がゆっくりになります。また、胃腸以外の肝臓や膵臓の機能低下は消化機能全体の低下に影響を及ぼします。

シニア(高齢期)におけるケアについて

獣医師である前に私自身も「飼い主」であり、これまでたくさんの自分自身、そして患者様の大切な家族のシニア期のケアと向き合ってきました。

シニア(高齢期)のケアは多種多様であり、場合によっては悩ましい問題に直面することも少なくありません。

また、シニア期を迎えた動物との向き合い方には決まった答えや形はなく、それぞれの状況に合わせたケアが必要です。

食事のケア

適切な食事は体を維持するための基本です。老齢期は若い時より基礎代謝が低下し、1日のエネルギー必要量は20%程低下すると言われています。食事の質を考え体の状態にあった食事内容に変更しましょう。

また、食欲があるからといって成犬、成猫と同じでは肥満の原因となりますので注意が必要です。

■シニアフードへの切り替えはいつから

飼い主様によく質問されることですが、7歳が目安とお答えしています。しかし、基礎代謝が大きく変化するのは10歳頃からなので7歳からは老齢期までの準備期間(プレシニア)と考えて、備えていくと良いでしょう。

■エネルギー必要量と飲水量

しばしば老齢期では体重減少が問題になります。適切な食事と飲水の量を意識しておきましょう。
食事や飲水量について困ったことがあればご相談ください。

■食事のケアの実例

①食欲が低下している

まずは病的な異常による食欲低下がないかどうか、様子をしっかり観察して病院で診察を受けましょう。

そのうえで、自発的に食事がとれるような環境を整えることが基本です。そして、足りない分があれば補助を行っていきます。嗜好性(受け入れやすさ)を高める工夫はこの際にとても重要です。

②どのような食事を与えるか

食事の嗜好性を高めることで、自発的に量も食べることが可能になります。

あたためることで香りを出すことや、水分含有量を増やすためにウェットフードやふやかしフードを使用したり、トッピングすることも有効的です。

ふやかす場合の水分量はドライフード1に対して水2の割合にすると缶詰と同等の水分量になります。

トッピングに使用する補助食は状況により適宜変えていくと良いでしょう。飲み込む力もあり食欲を促す目的だけであれば、ささみや野菜、チーズなどの固形物を使用し、フードをまとめて食べやすくするにはペースト状(缶詰、パウチ)、にこごりタイプの素材缶、ウェットフード、水煮・水様性の缶詰などを使用します。

③どのように食べさせるか

自力で立てるかどうかで大きく変わりますが、食べる際の姿勢を楽にしてあげることが大切です。

食器の高さを調節したり、食器の形状を変える、水の器の数を増やすなどが効果的です。

また、自力での起立や歩行ができない場合は本格的な食事介助が必要となり、飼い主様の負担も多くなってきます。誤嚥や逆流性食道炎にも注意しなければなりません。食事の介助方法などは病院でご相談ください。

歩行のケア

歩行の状態に応じて適切な散歩や運動を行うのが望ましいでしょう。

■走ることが可能な場合

首輪でなく胴輪の使用をお勧めします。首輪は引っ張ると首に負担がかかります。

頸椎の変形性脊椎症がある老犬は多く、引っ張る力が弱くても積み重なれば深刻な痛みを引きおこす場合もあります。また、締まるタイプの首輪も避けるべきです。胴輪であっても引っ張る力が強いと背中や腰にも負担がかかりますのでリードも体に合ったものを選び普段から、引っ張りすぎないような散歩のしつけも重要です。

歩き始めや立ち上がる際に「もたつき」がみられるなら骨関節系の問題かもしれません。

加齢性の筋肉・関節のケアのためのサプリメントを使用することでQOL(生活の質)を向上させることが可能です。気になる方は病院にご相談ください。

■歩行に介助が必要になったりする場合

歩行補助具を使用すると良いでしょう。また、筋肉・関節が固くなってしまうのを緩和するためにマッサージを行うなど、運動のペースを体力に合わせて休息を十分にとりながら調節すると良いでしょう。

■歩けない場合

歩行困難の原因としては椎間板ヘルニアや変形性脊椎症、変形性関節症などの骨関節疾患や筋肉の衰えがあります。歩き方の変化を感じ始めたら、早めに病院にご相談ください。後肢が不自由な場合は車いすで生活することも可能です。ねたきりになってしまった場合でも外の光や風に当たることやカートでのお散歩も夜鳴きの予防として効果的です。

排泄のケア

排泄は体内の不要なものを体外に出す生命を維持する大切な行為です。このあたりまえに行われる機能がうまく働かないと、さまざまな障害を起こしてしまいます。

■便秘の場合

老齢犬や老齢猫は関節炎や変形性脊椎症を患っている場合が多く、便秘になると排便時に痛みからストレスを感じる場合があります。便秘には予防が肝心です。食事や飲水に気を付けて便秘を予防することでQOL(生活の質)が向上するでしょう。高齢の犬猫はかなりの割合で水分不足になっている子が多いです。しっかり飲水させることでスムーズな排便を促しましょう。食事に関しては1つ目に食物繊維を与えることです。便の量が増えることで大腸が刺激され蠕動運動が促進され排便がスムーズになります。(便の量が増えること、水分摂取量に気を付けないと固い便になります。)2つ目は腸内環境を整えることです。腸内の宿便がたまると、悪玉菌により腸内環境が悪化してしまい便秘の悪化やガスがたまってしまいます。善玉菌が多い最適な腸内環境を維持するために乳酸菌や腸活サプリメントを使用することをお勧めしています。

■排尿のケア

高齢になると排尿時の膀胱の収縮力も低下します。また、尿漏れなどの症状がある場合はおむつなどを使用することも効果的です。ただし、衛生管理に気を付けて清潔に保つようにしてあげてください。自力排尿がうまくできない場合は「圧迫排尿」を行うことも検討しなければなりません。「圧迫排尿」にはある程度の慣れが必要となります。

はじめのうちは病院でサポートしますので遠慮せずに来院してください。

睡眠のケア

シニア(高齢期)になると睡眠時間は年齢と共に長くなり、若いころのような活発さがうすれていきます。

さらに、ハイシニア(超高齢期)になると睡眠のサイクルが変わり、昼夜逆転の状態も起こり得ます。

認知症を発症すると夜中から明け方に鳴くことがあり、飼い主様の精神的・肉体的な負担は計り知れないものとなります。この段階での来院・相談に至ることがほとんどであり、疲れ困り果ててしまっている方が多いと感じます。

大切な家族との時間が少しでもおだやかなものとなるよう、可能な限りサポートしますのでどうかお早めにご相談・ご来院していただくようお願いします。(以下のことが分かると詳しくお話ができます)

  • 睡眠の悩みはどのようなものか
  • 寝ている時間帯と起きている・寝ているときの様子について
  • 現在の寝床の様子は
  • 褥瘡や脱毛、擦り傷があるか
  • 排泄(排便・尿)、食事の回数

寝る時間が長くなったタイミングで「介護用マット」の使用もお勧めです。マットの種類はたくさんありますのでいろいろ試してみるのも良いでしょう。病院でお勧めできるものもありますのでご相談ください。

認知機能のケア

高齢化する動物医療でも近年、「認知症」という表現が一般的に使われるようになり、飼い主様の関心も高まっています。すべての動物にあるものではないですが寿命が延びるに従い多く認められるようになります。

<認知症のチェックポイント>

  • 昼夜が逆転する
  • 夜鳴き、単調な大声で鳴き続ける
  • 呼びかけても応えない
  • トボトボと歩き続ける。徘徊する。
  • 前進するが後退しない
  • 狭い場所に入ると出られない
  • 無気力になっているように見える

これらの中で、特に問題となる症状が夜鳴きと徘徊です 。大切なのは異常な行動に早めに気づいてあげること、認知症かどうか迷ったら診察をうけることです。

■具体的な予防と改善策

①夜鳴き

認知症が進むと昼夜逆転してしまうことが多いです。この状態は飼い主さんにとって、非常に悩ましく、精神的にも体力的にも疲れ果ててしまうことがあります。まずは可能な限り、鳴き声が外に漏れにくい場所に犬の居住スペースを移動させます。そのうえで、夜鳴きの原因を探し対処方法を考えてみましょう。

<痛みはありませんか>

歯周病による痛み、椎間板ヘルニアによる痛みを訴えている場合もあります。寝床を低反発マットに変えたり、歯周病ケアにより夜鳴きが減ることもあります。

<便秘気味ではありませんか>

脱水や腸の運動機能低下による便秘でお腹にガスがたまっている場合があります。しっかり飲水することやお腹だけでなく体もマッサージしたりすることで改善することがあります。

<ちゃんと眠れていますか>

やせている高齢動物は温度変化に敏感です。体が冷えてしまうことや寝床が固くて眠りが浅くなる場合があります。居住環境を見直して快適に過ごせるようにしてみましょう。

<さびしがっていませんか>

夜鳴きの時にそばにいてあげるだけで鳴き声が小さくなることもよくあります。様子を見に行くだけでなく可能であればそばに連れてくることも考えてみてください。

<改善策について>

「認知症」という言葉が動物でも一般的になり、さまざまな改善策が考えれています。

サプリメント:認知機能ケアや心のケアを目的としたサプリメントが開発されています。

正しい生活サイクルに戻す:昼夜逆転の生活サイクルを戻すことは非常に効果的です。可能であれば日光浴やお散歩なども効果的です。

薬物療法

投薬は最後の手段として考えましょう。鎮静や睡眠を目的としたお薬を処方することもありますが、あくまで症状を抑えているものであり、場合によっては認知症の進行を早めることもありますので、よく検討してからにするべきです。

②徘徊

意味もなくトボトボと前進し続けたり、家の中を歩き回ったりする症状を「徘徊」といいます。

後退することができない場合もあり、障害物の前で立ち尽くしたり、すきまに入り込んでしまうこともあります。

この時、無口のまま立ち続けることもあれば、鳴きはじめる子います。

<予防と改善策について>

円を描くように歩く場合には「エンドレスケージ」を作ってあげるがよいでしょう。これはクッション性のある材質ののものをつなぎ合わせて円をつくり、その中を歩き続けさせる方法です。やがて疲れて眠ってしまうのであればそっとしておきましょう。

緩和ケア

緩和ケアとは厳しい状態をやわらげるという目的であり、「治療目的の治療が有効ではない患者がQOL(quality of life/生活の質)を維持しながら寿命を迎えるためのケア」という意味です。

いつかは訪れる大切な家族との別れについて、考えておくことで家族との生活が充実したものとなるでしょう。

けい動物クリニックでは様々な家族のあり方を尊重し、緩和ケアを「治癒を目的とした医療ではなく、症状を和らげることを目標とする医療」と考えており、以下の様な緩和ケアのサポートを行っていますのでご相談ください。

  • 疼痛(痛み)全般のケア
  • 皮膚のケア(炎症や褥瘡など)
  • 精神面のケア(夜鳴き、不眠など)
  • 呼吸のケア(咳、呼吸困難など)
  • 泌尿器のケア(失禁、頻尿、膀胱炎など)
  • 消化器のケア(脱水、食欲不振、嘔吐、便秘、下痢など)
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